「アフリカ仏語圏地域初等教育行政」研修コース(平成9年〜13年度)
アフリカ仏語圏地域 初等教育行政研修
コース設置の背景
アフリカ諸国では、高い人口増加率により教育ニーズは拡大しているにもかかわらず、近年の経済危機により教育予算が伸び悩んでいる、その結果、教育の質、量双方の悪化を招き、教育の普及は進んでいない。このような背景を持つアフリカ諸国に対しては、教育開発、特に基礎教育分野の支援により、貧困問題の解決を図ることが期待されている。
1996年4月に開かれた第9回国連貿易開発会議(UNCTAD)で、日本政府はアフリカ開発の取り組みの一つとして、「アフリカ人造り支援構想」を表明し、2015年までにアフリカにおけるEducation for
Allを達成するための支援として、アフリカ諸国における初等教育を中心とする教育分野に対し、研修員受入を初めとする協力の実施を約束した。
以上の経緯を踏まえ、アフリカ諸国の初等教育の普及に資する人材の育成を目的に1997年に本コースを新設するに至った。平成9年1月に本コースの研修ニーズを把握し、的確なカリキュラムを策定するために、調査団がセネガル共和国に派遣された。その結果、教育行財政に関しては、財政管理、政策立案能力及び教育統計資料の整備について、教員養成・研修に関しては、予算配分、施設設備、研究機能及び教員の資質について、初等教育に関しては地域の実情に則したカリキュラム開発、内部効率及び教材等の配布についてそれぞれ深刻な問題を抱えている現状が把握された。この現状を踏まえ、仏語圏アフリカ諸国の教育水準の向上のために初等教育の普及が最重要課題であること、及び中央・地方教育行政官が具体的方策を行政に反映させることが急務であるとの研修ニーズが確認された。
コースの目的・到達目標
(1)コースの目的
仏語圏アフリカ地域の教育行政官を対象に実施するコースであり、初等教育分野各セクターにおける我が国や仏語圏アフリカ諸国の経験や現状、理論、実際の取り組みを紹介しあい、自国との比較・検討を通じて、各国における初等教育分野の課題とその解決策を検討することを目的とする。
(2)到達目標
- 我が国の初等教育における経験や現状、教育方法等を知ることを通して、同分野の知識や理解を深める。
- 自国以外の仏語圏アフリカ各国の初等教育における経験や現状・教育方法等を共有することを通して、自国の教育諸課題を相対視しその解決策を探る。
- 教育開発の理論と実践、国際協力の動向等について理解を深める。
- 我が国の現職教員研修制度の仕組み、研修の実際を知ることを通して、研修制度の重要性を認識するとともに、望ましい実践方法について理解を深める。
- 我が国の学校施設や授業の視察及び教職員との懇談を通じて、各国の教育現場の状況(課題)を明確にする。
- 習得した内容を基に比較教育学的見地から各国の初等教育分野の諸問題について検討し、それらの課題に対する改善計画を立案する。
研修方法と研修の流れ
(1)研修方法
- 本研修は講義、演習、視察、討論及びレポート作成で構成されている。
- 研修は日本語を適宜フランス語に通訳して実施する。
- 研修カリキュラムは表1の通り。
(2)研修のながれ
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カントリーレポート作成
各研修員は来日に際し、カントリーレポートを作成している。この作成を通じて、自国の教育分野の現状、課題・問題点を把握してくるものと思われる。セクター項目は以下の通り。
- 初等教育行政システム
- カリキュラム・教科書・教材
- 教師
- 家庭・地域と学校の連携
- 女子等の教育的弱者の教育
- 識字教育とノンフォーマル教育
- 国際協力
- 教育開発モデルの提示
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プログラムオリエンテーション
研修開始に際し、本研修コースの目的・到達目標を確認すると共に、研修全体の流れについて説明する。
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PCMワークショップ
プロジェクトの計画・実施・評価という一連のサイクルの運営管理を行うためのPCM手法(プロジェクト・サイクル・マネージメント)の概要を理解した上で、各研修員が直面している問題・課題について、その構造を自分なりに明らかにし、技術研修における課題を明確にすることを目的にする。
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技術研修
技術研修は複数の単元によって成り立っており、各単元は講義・演習・見学によって構成されている。単元及びその内容については以下の通り。
- <広島大学実施分>
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- 広島大学担当部分は次の8つの単元が設定されている。なお、各単元については、「日本の状況と理論、国際的な動向に関する講義」「仏語圏アフリカ各国における現状と課題に関する研修員による発表」「日本を含めた各国の状況を踏まえた上で各国ごとの課題解決のために具体的に何が出来るかについての講師を交えての検討」から構成される。
- 概論 研修開始に際して、日本の教育についての概要等について理解する。
- 初等教育行政システム 仏語圏アフリカ各国と日本の初等教育行政システム(省庁や部局の構成、中央と地方の関係、教育財政システム)、国家計画における初等教育計画の位置付け、現行の政策の方向性を相互に学ぶ。
- カリキュラム・教科書・教材 各国の初等教育のカリキュラムの概要、教科書・教師用指導書・教材の内容と学生・教師のアクセシビリティ・配布方法とその課題を相互に学ぶ。
- 教師 各国の初等教育の教員養成システム・教師資格制度・採用システム、現職教員の研修システム、教授法・教師の質・教員給与等を含めた教師に関する課題について相互に学ぶ。
- 女子等の教育的弱者の教育 各国の女子・少数民族・貧困層というような社会的弱者の教育状況とその改善のための努力について相互に学ぶ。
- 識字教育とノンフォーマル教育 各国の識字教育とノンフォーマル教育の状況とその課題について相互に学ぶ。
- 国際協力 各国の教育分野の国際協力の現状と課題について相互に学ぶ。
- 視察 日本における教育関連施設の視察を行う。
- <広島県立教育センター実施分>
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広島県立教育センター担当部分は次の2つの単元によって構成される。特に現職教職員研修を実施している教育センターの業務の実際を中心に見ていくことになる。
- 現職教員研修:我が国の現職教員研修制度の仕組み、研修の実際を知ることを通して、研修制度の重要性・望ましい実践方法について理解を深める。
- 教育現場の実際:我が国の学校施設や授業の視察及び教職員との懇談を通じて、各国の教育現場の状況(課題)を明確にする。
- <留意点>
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- 研修では主に日本の経験・現状が示されることになる。研修の円滑な実施と高い効果を得るために研修では情報の伝達だけでなく、その中で各研修員が自国情況と比較しながら理解しその活用を考えることができるように質疑や意見交換の場を設定する。
- 各研修員は次の点を留意しながら研修を受講することが求められる。
- 自国の現状と比較しつつ内容を理解すること。
- 研修開始時に設定した各自の課題を意識するとともに、その解決方法を考えること(学習内容の自国への適用)。
- 他の研修員との意見交換をしながら、助言を行うこと。
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最終レポート作成・発表
研修で得た知識や技術に基づき、自国の初等教育における問題点・課題について明らかにし、それらを改善するための計画を検討・立案し、発表を行う。最終レポートでは特にカントリーレポート発表時に各研修員が課題として取り上げた内容に注目して作成することとする。
東京研修風景
研修参加資格要件等
(1)研修参加資格要件
- 正式手続きにより応募国政府から推薦された者(現職教員は対象外とする)。
- 現在、中央政府の初等教育行政に従事する行政官。
- 3年以上の実務経験を有する者。
- 大学卒業者、またはこれに準ずる学歴を有する者。
- 原則として30歳以上、40歳以下である者。
- 仏語に堪能である者。
- 健康である者。
- 兵役に就いていない者。
(2)選考基準
本コースの応募要領に基づいて、応募国政府から提出された要請書により、主に応募条件の具備程度、要請度合等を総合的に検討し、広島大学教育開発国際協力研究センター、広島県立教育センター及び国際協力事業団で協議して選考する。
研修員選考では国別に1名ずつの研修員を選出するのではなく、全候補者の中から最も適切と思われる10名の研修員を選出する。従って、各国とも複数名以上の候補者を選出することを薦める。なお、選考会では以下の点を考慮して選考を行う。
- 研修員の現職及び履歴
- カントリーレポートの内容
- 性別(女性の社会参加促進の観点から、女性参加を特に歓迎する)
- 英語読解力(多くの英語資料の提供も考えていることから、十分な英語能力を有する者を優先する)
(3)定員、割当国及び受入数
- 定 員:10名(平成12年度は8名)
- 割当国:11カ国(青色が平成12年度の参加国)
象牙海岸 セネガル モーリタニア マリ ギニア ブルキナファソ ベナン ニジェール カメルーン ギニア・ビサオ マダガスカル
研修実施体制及び運営
(1) 本コースは国際協力事業団中国国際センターと広島大学教育開発国際協力研究センター及び広島県立教育センターとの協力により、実施運営するものとする。なお、具体的業務分担は次の通りとする。(平成12年度)
<広島大学教育開発国際協力研究センター>
- カリキュラム作成に係る助言、指導
- 理論面における講義、発展途上地域における教育開発に関する講義、教員養成に関する講義
- カントリーレポート発表会、討議、成果発表会の指導
- 広島県以外の見学先、研修旅行の手配、計画
- テキスト資機材の計画に係る全体調整
<財団法人ひろしま国際センター>
- 見学先、研修旅行の手配
- 講師との連絡調整
- 研修経費の処理
- 講義室、会場、資機材の手配
<広島県立教育センター>
- 広島県内における見学先の計画
- 実務面(現職研修、教材開発等)に係る技術研修の計画、講師の選定
- テキスト資機材の計画
<国際協力事業団中国国際センター>
- 技術研修日程の全体調整
- テキストの作成
- 講師打合せ会、閉講式の実施、評価会、反省会の開催
(2)コース運営上検討事項が生じた場合には、広島大学教育開発国際協力研究センター、広島県立教育センター、及び国際協力事業団中国国際センターが協議を行うものとする。
(3)研修期間中、国際協力事業団は研修監理員(財団法人日本国際協力センター 村上 伸子)を配置し、業務調整及び通訳業務にあたりコースの円滑な実施運営をはかるものとする。
付帯研修プログラム
(1)ブリーフィング
JICA中国国際センターにおいて、来日翌日から、来日事務手続き、滞在諸手当の支給及び日常生活の一般留意事項についてのブリーフィングを実施する。
(2)ジェネラルオリエンテーション
ブリーフィングの他3日間、日本滞在中の必要知識として、日本事情の紹介を中心としたジェネラルオリエンテーションを(1)と同様実施する。
(3)日本語講習
研修を円滑に推進するため、日本語集中講習を1週間(25時間)実施する。
研修の評価
研修目的、目標の達成度合いについて、的確に把握するとともに、今後の同コース運営の参考に資するため、次のとおり評価会等を実施する。
(1)最終評価会
所定の報告書を提出させ、研修到達目標の達成ならびにコース全体の成果について感想、提案を求めるために討論形式で意見交換を行う。
(2)反省会
提出された報告書類、講師の意見、見学先の感想、評価会における発言等を総合的に分析し、本コースの評価を確定するとともに、次回コースの基本計画の改善を図るために協議する。